映画きの組合員が、半分趣味として書き始めたコーナーです。
         思い込みの激しい内容ですが、読んでみて下さい。

回 数 作 品 名 制作年度 掲載号
第81回  フォロー・ミー 1972年  2010.2(No23)
第82回  ヤング・ゼネレーション 1979年  2010.3(No264)
第83回  スミス都へ行く 1939年  2010.5(No265)
第84回  ハッピーフライト HAPPY FLIGHT 2008年  2010.7(No267)
第85回  ファン・ボーイズ 2009年  2010.9(No268)
第86回  BALLAD 名もなき恋のうた 2009年  2010.10(No269)
第87回  インビスタス/負けざる者たち 2009年  2010.11(No270)
第88回  大草原の小さな家 1974〜1983年  2011.1(No271)
第89回  がんばれ!ベアーズ  1976年  2011.2(No272)
第90回  南極料理人   2009年    2011.4(No273)



 ACT81   フォロー・ミー        1972年   イギリス映画    
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どのシネコンも同じ作品を上映している現実に「もっと様々な映画が見たい」と思っていた。名画座も減り、名作はDVDで見るしかない。それでも「ウエスト・サイド物語」(注1)の豪快な群舞はスクリーンで見たいものだ。
 そんな折、映画ファンにとって画期的なイベントが始まる。「午前十時の映画祭」。2月6日(土)から来年1月21日(金)まで、全国25の劇場で50本の名作が毎日1回、週替わりで上映される。
 中でも楽しみなのがこの作品。ビデオもDVDも未発売なのだ。最近、テレビ放映され、何十年ぶりかで再会した。大人になり、結婚した今の私にとって、作品の魅力は一層増していた。

 男は公認会計士の典型的なイギリス紳士。女はカルフォルニアからインドへ旅の途中のヒッピー風。生い立ちも生活環境も異なる二人がロンドンで出逢う。初めは互いに新鮮だった。そして結婚。しかし、生活を共にすると価値観の違いが明確になる。毎晩帰宅が遅い妻に対して夫はある疑念を抱き、絶えきれず探偵に調査を依頼する。ドラマはほぼこの3人で進行する。 

 「結婚は義務を果たす契約」と語る夫。「結婚しても毎日新しい歓びが必要」と反論する妻。息苦しい展開だが、参考となる金言も多く、ハッと我が身を振り返える。「俺は大丈夫か・・・?」前半はさながら舞台劇のようだ。
 「新しい愛人も必要か!」耐えきれなくなった夫はついに問題の核心に触れる。顔色が変わる妻。「あれは浮気にあたるのか?」実は妻に一抹の不安がないこともない。最近、自分の後をつけてくる男に親愛の情を感じているからだ。
 
皆さんには男の正体はもうお解りだろう。
 会話を交わすことなく、一定の距離を置いてはいるものの、妻の眼から見て男が尾行しているのはバレバレだ。というより、その事を互いに楽しんでいる。ただ、妻は男の正体をまだ知らない。それはそれとして、男の暖かい眼差しに包まれることで、妻は日々の孤独感から解放される。
 
時には探偵が前を歩いて先導する。この街にはこんなに素敵な所がある。動物ってカワイイね。映画はホラーもいいけど、「ロミオとジュリエット」(注2)の方がお勧めだ。探偵(トポル)と妻(ミア・ファーロー)が繰り広げる無言の会話。映像と音楽とカット割の妙にゾクゾクする。いつしか嬉し涙さえ流れている。こんなチャーミングな映画にはそう出逢えるものではない。 
 その後、男の正体を知った妻と夫との間には、更に一悶着あるのだが、結末は見てのお楽しみ。
マカロン(お菓子)を持って、テムズ川下りの遊覧船に乗りたくなること必至の佳作である。
 
大阪地区では、4月17日(土)〜23日(金)「なんばTOHOシネマズ」で公開される。
 映画ファンとしてこのイベントが成功することを願ってやまない。(つ)

(注1)ミュージカル映画の金字塔が「午前十時の映画祭」で上映される。この機会を見逃すな!
(注2)本作も「午前十時の映画祭」で上映。オリビア・ハッッセーの美しさに衝撃を受けるだろう。



ACT82     ヤング・ゼネレーション       1979年   20世紀FOX作品
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52回アカデミー賞脚本賞を受賞した青春映画の傑作(注1)。日本ではDVDは未発売だったが、20世紀FOX社の「リクエスト・ライブラリー」で一番人気を獲得し、待望の初リリースとなった。あまりにもストレートな邦題に引いてしまう人も多いだろうが、原題は「Breaking Away」という。「束縛から自由になる」という意味があるらしい。
 舞台はインディアナ州ブルーミントン。かつては石切業が主要産業だったが、今は老人が細々と携わっている程度。石切場跡は巨大なプールと化し、高校卒業後ブラブラしているデイブ、マイク、シリル、ムーチャの溜まり場となっている。
 今、町の中心はインディアナ大学だ。言い換えれば、学生たちが落とす金がこの町を支えている。整備されたキャンパス。勉学とスポーツに専念できる環境。何不自由なく育った学生たちは、地域住人を「カッター」と呼ぶ。「石工」の他に、「将来が途切れた者」という意味も含んでいる。事実、石切業は寂れ、進路に戸惑う4人にとって、学生は眩くも腹立たしい存在である。  

 とりわけ高校時代、自称花形クォーター・バックだったマイクは苛立ちを隠せない。アメフト部の練習を眺めながら「毎年期待の新人が現れるが、俺はマイクのままだ。奴らは歳を取らない」と呟く。本当は自分自身に怒りを感じている。
 一方、自転車レースに熱中しているデイブはお気楽だ。「イタリアからの留学生」と嘘をついて女子大生と付き合い始める。そんな折、3人が学生といざこざを起こす。大学は暴力ではなく、自転車レースで競うことを提案する。マイクは、デイブがいれば勝ったも当然といたって乗り気だが、デイブは困惑する。出場したら「カッター」だと彼女にばれてしまう。
 憧れの自転車チームとのレースで、デイブは彼らの汚いやり口にショックを受ける。彼女にも留学生でないことを告白する。落ち込んだ息子を見かねた父親はデイブを連れ出し、「このビルの石は自分が切った。仕事に誇りを持っていた」と語る。学生相手の中古車販売で生計を立てているが、父もかつては「カッター」だった。一方、「今は校舎が立派に見えて気後れする」と嘆く。
 人は月日を重ねると違う感情が湧いてくる。しかし、石工がこの町を造り、大学を建て、自分を育ててくれたのはまぎれもない事実だ。若者はやがて居心地の良い場所から旅立たねばならない。いつまでも群れてはいられないのだ。父との語らいで旅立ちの時と悟ったデイブは「カッターズ」と名乗り、自転車レースの出場を決意する。
 ピーター・イエーツ監督(注2)の小気味良い演出が冴える。特に、学生と競り合うラスト1周半をロングのワンカットで捉えたカメラが素晴らしい。30年の月日を経て、一層好きになった作品である。(つ)

(注1)2006年にアメリカ映画協会選出「勇気と感動ベスト100」で第8位にランクされた。
(注2)巨匠ではないが俊英といった印象の監督。スティーブ・マックイーンの「ブリット」が有名。



ACT83     スミス都へ行く       1939年   コロンビア作品
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寓話と言えば寓話かもしれない。しかし、心のどこかに「こんな人がいて欲しい。政治はこうあって欲しい」と願う自分がいる。
 ドラマは上院議員が亡くなったという一本の電話から始まる。州知事とその州の政財界を牛耳る黒幕は大騒ぎ。なぜなら、彼らが推進するダム建設法案が大詰めを迎えているからだ。裏には土地転売に絡む汚職が潜んでいる。知事は早急に後任を指名しなければならないが、切れ者では不正がばれるし、黒幕の腰巾着では委員会の反発を買う。そこで浮上したのが少年警備隊の隊長であるジェフ・スミス。「政治に無知なので使いやすい」「子供に人気だから親の支持が得られる」という理由からだ。今でいうタレント議員。まあ、こういう発想は古今東西あるのだろう。
 かくしてスミスは、亡き父の盟友だった先輩上院議員と共に都(ワシントン)へ向かう。(注1)到着そうそう威風堂々としたホワイトハウスの姿に興奮し、観光バスに乗り込み、気が付けばリンカーン記念堂に立っている。「迷子になった」と慌てふためく周囲の心配をよそに。

 若かりしジェームズ・ステュワートのぼくとつさと、秘書役のジーン・アーサーのキャリア・ウーマンぶり。この二人の対比が面白い。「ガキ大将の世話なんて!」とうそぶいていた彼女が、スミスの実直な性格に触れて「初めて子供を学校にやる母親の気持ち」になり、やがて重要なパートナーへと変貌していく。
 新聞記者たちに「何しに来たの?」とコケにされたスミスは、故郷に国立キャンプ場を建設する法案を提出する。しかし、その土地はダム建設予定地だった。そして汚職の実態を知る。しかも尊敬する先輩議員さえ一枚噛んでいるではないか。
 
黒幕はスミスの追い落としにかかる。自らがオーナーを務める新聞社を使い、キャンプ場建設には不正があると逆に濡れ衣を着せる。「作られた世論」によりスミスは苦境に立たされる。
 
こうした操作も古今東西あるもので・・・。だからマスコミをあんまり信用しちゃあいけません。情報収集は結構だが、自分の考えや主張まで支配されてはならないのだ。
 かくして、上院議会内で孤立したスミスはどうやって強大な権力に立ち向うのか。傍聴席から応援する秘書の活躍も見物だ。そしてもう一つのお楽しみは、上院議長の存在(注2)。世話は焼きすぎず邪魔もしない。若手を育てるとはこういうことなのかも知れないと感心した。
 白黒だし、モノラルだし、当然3Dでもないけれど、「古き良きアメリカ」の正義と理想を謳いあげた「豊かな作品」である。(つ)

(注1)原題は「MR.SMITH GOES TO WASHINGTON」である。
(注2)演じるハリー・ケアリーは巨匠ジョン・フォード監督を発掘した人らしい。私生活もスゴイ!



ACT84      ハッピー フライト
      
HAPPY FLIGHT
  2008年 アルタミラピクチャーズ作品
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夏休み、皆さんどんな計画を立てましたか。ヒコーキも早めに予約すれば安いんだよね。ということで、家族で楽しめる作品を紹介しよう。
 学生時代、8ミリ映画を自主制作していた矢口靖史監督は、PFF(注1)でグランプリを受賞し、16ミリ映画「裸足のピクニック」(93)でデビューを飾る。「ひみつの花園」(97)、「アドレナリンライブ」(99)で映画ファンの支持を得たのち、「ウォーターボーイズ」(01)のスマッシュヒットで妻夫木聡と共に世間に知られる存在となる。「スウィングガールズ」(04)はフジテレビの全面支援を受け大ヒットを記録した。
 成功とともに扱う題材も広がっていく。個人映画でスタートした矢口監督が、本作では「空の安全」という社会的題材を扱っている。といっても、後半ハラハラさせる場面も用意はされているが、決してサスペンスやパニック映画にはならないところが矢口流。乾いたコメディタッチは健在だ。なにしろ「ハッピー」フライトなのだから。

改めて見直すと脚本が良くできている。機内、ターミ ナル、管制塔、オペレーションセンター、整備場。おまけに屋外パトロールまで登場させ、飛行機を飛ばすには、実に様々な人間が関わっていることを教えてくれる。航空業界の裏話を紹介しながら物語はテンポ良く進行する。例えば、機長と副操縦士が同じ機内食を食べてはいけない事や、グランドスタッフが機内に足を踏み入れてはいけない事など・・・知っていましたか?
 映画ファンとして嬉しいのは、日本映画を支える名脇役が次々と登場することだ。岸辺一徳、笹野高史、田山涼成、柄本明といったベテランから、田中哲司、中村靖日、江口のりこ、平岩紙といった新鋭まで(注2)、キャラの濃い個性派たちが役柄にピタリとはまって無理がない。その味わいは、極上ステーキではないけれど、次々と珍味が味わえる満足感といったところか。主演の綾瀬はるかも含めキャスティングは完璧である。
 中でもグランドスタッフ役の田畑智子の奮闘ぶりと毒舌は爽快で、彼女の「ハッピー」を匂わせるラストショットに思わず嬉しくなる。チーフパーサー役の寺島しのぶも見事だ。部下の過ちをちゃんと叱り、自ら手本を示すことのできる上司。しかも、乗客の理不尽な要求に対しては毅然と対応する。上司たるもの、部下を指導してナンボ。その頼もしい姿は大いに参考になる。残念ながら世間の評価も興行成績も期待ほどではなかった。しかし、テンポが悪くて間延びした前作より、はるかに完成度は増している。
 ユニークな視点と商業的センスをあわせ持つ、矢口監督の更なる進化に期待したい。(つ)

注1)「ぴあフィルムフェスティバル」の略。この映画祭から多くの新人監督が巣立っていった。
(注2)この他にもベンガル、小日向文世、竹中直人、木野花といった個性派が顔を見せる。



ACT85   ファンボーイズ       2009年   アメリカ映画
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7月、NHK BS-hiで「スター・ウォーズ」全6作が放映された。「THIS IS “MY STAR WARS“」という関連番組では12人の著名人がお気に入りのシーンやキャラクターを紹介していたが、これがなんと全員男性(やっぱりなぁ・・・)。本作の主人公も「スター・ウォーズ」ファンの4人の男たちだ。
 製作順では第1作の「エピソード4/新たなる希望」が世に出たのが1977年。本作は「エピソード1/ファントム・メナス」の公開を控えた1998年のハロウィンから始まる。「エピソード6/ジュダイの帰還」の公開が1983年だか15年もの年月が経過し、少年時代ライト・セーバーごっこに興じた彼らもりっぱな(?)大人。しかし、その熱はいっこうに冷めてはいない。
 そんな折り、仲間の一人が末期ガンで余命数ヶ月と宣告される。「ファントム・メナス」の公開には間に合わない。そこで彼らはルーカスフィルムの本拠地・スカイウォーカーランチ(注1)に潜入し、フィルムを盗み出すという、子供時代に立てた無謀な計画を実行に移す。

 実際、そういう輩も多いようで、こんな危ない話をジョージ・ルーカスが認めるはずがないと思いきや、ラフ編集を見たルーカスは作品を気に入り、「スター・ウォーズ」のサウンドエフェクトの使用を許可した。余談だがレイア姫ことキャリー・フィッシャーもカメオ出演している。
 彼らが住んでいるオハイオからカリフォルニアまで3,200qの旅。途中、様々な事件が起きる。その中心はトレッキー(注2)との戦いだ。互いに罵詈雑言を吐いての乱闘もあるが、カーク船長を演じたウリアム・シャトナーがスカイウォーカーランチ潜入の手助けをするなど、互いの作品を認めた上でのギャグなのだろう。
 
「ハリソン・フォード出演作には駄作はない」と言った瞬間、彼らを乗せた車が「6デイズ・7ナイツ」の看板を横切ったり、(意味分かるよね?)。スカイウォーカーランチの警備員がルーカスの処女作「THX1138」のコスプレをしていたり、「あなただけが頼り」といったシリーズの名セリフをパクったり・・・。些細な事には目くじら立てず、張り巡らされたパロディを発見し、ファンである喜びに浸る。これがこの作品の正しい楽しみ方だ。
 日本での公開予定はなかったが、ファンの署名活動で今年4月劇場上映され、DVDも発売。なんとNHK BS-hiでの特集にも連動して放映された。それは、「スター・ウォーズ」ファンによる、「スター・ウォーズ」ファンのための映画として認知された瞬間でもあった。(つ)

(注1)ルーカスフィルム本社が入るスタジオの総称。ランチとは「農場」を意味する。
(注2)「スター・トレック」の熱烈なファンの総称。否定的な意味をもつこともある。


ACT86    BALLAD 名もなき恋のうた   2009年 東宝配給
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 大傑作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』が実写でリメイクされると聞いて、「大丈夫か?」と心配したのは私だけではないだろう。実際、原恵一監督(注1)も始めは冗談かと思ったという。しかし、悪い予感は良い意味で裏切られた。大筋は同じだが、野原しんのすけが主役の原作と、廉姫と侍大将・井尻又兵衛の悲恋を主旋律とする本作とは異なる魅力を持つ。だから、しんのすけと又兵衛の「男同士のお約束」のエピソードがカットされたと嘆いてみても、それは仕方のないことなのだ。
 川上真一は、いじめっ子から女友達を守れず、「僕に勇気を下さい」と自分の情けなさに癖々している小学生。カメラマンの父・暁は生真面目だが優柔不断な性格で、川上家の実権は母・美佐子が握っているようだ。家族構成とキャラクターを変更したことで、登場人物にリアリティーが加わった。野原一家を生身の人間が演じても、それは悪趣味なギャグにしかならなかっただろう。イメージ通りなのは廉姫役のガッキーくらいのもの。又兵衛がツヨポンでは線が細いと見る向きもあるが、ここ一番ではちゃんと武将の顔になる。他のキャストもみな好演している。
 設定の変更も的を射ている。又兵衛の世話役である仁右衛門の年齢を若くし、文四郎という末子の少年を配したことで、真一は戦乱の世をよりリアルに感じる。遊び相手としての文四郎。それでいて三人の兄を戦(いくさ)で亡くし、同じ運命をたどると思われる文四郎。「いつまでも逃げていられないンだよ」。ラストに発した真一の言葉は、又兵衛より文四郎の影響の方が大きいのではないだろうか。

 廉姫に政略結婚を申し入れる大倉井高虎も魅力的だ。原作では「お前のせいでこんな事になっちゃったンだゾ!」としんのすけに叱責される情けない武将だったが、本作では野心に燃える戦国武将として描かれ、又兵衛との一騎打ちもある。VFXが得意な山崎監督(注2)も、ここはワンカット長回しという演出で応えている。
 日常の小道具も活用され、真一の携帯や暁のカ
メラが、明日をも知れぬ人々の「生きた証」を刻む。撮影会のシーンが笑いに包まれているだけに、あとで切なさが一層押し寄せる。
 変更点で最も印象深いのが又兵衛の最期。しんのすけと馬に乗って城に戻るカットが、又兵衛に駆け寄る廉姫のカットに変更されている。決戦前夜、廉姫は又兵衛に「自由に生きよう。お前と!」と本当の気持ちを告白をしている。山崎監督がリメイクを切望した理由はここにある。
 「自由に生きることが出来なかった時代に自由を求めた二人」と「自由に生きられる時代なのに自由を奪われる現代人」。「どちらが幸せ?」と問われても判断は難しいが、「どちらが人間らしい?」と問われたら、答えは明確だろう。(つ)

(注1)『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の監督。この夏公開の『カラフル』にも泣かされました。
(注2)年末に木村拓哉主演『宇宙戦艦ヤマト』実写版の公開が控えている。



ACT87
 
    インビスタス/負けざる者たち  2009年 ワーナー・ブラザーズ配給
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道路を挟んで両側に、白人用の整備されたラグビー場と、黒人の少年がサッカーに興じる空地がある。1990年2月11日、ネルソン・マンデラを乗せた車がこの道を走る。冷ややかな目で見つめる白人と歓喜に湧く少年たち。
 今年、FIEAワールドカップが開催された南アフリカ共和国は、かつてアパルトヘイト(人種隔離)政策で世界から非難を浴びていた。マンデラは反アパルトヘイトの指導者として国家反逆罪終身刑となり、1964年から27年間も収監されていた。
 1994年、マンデラは大統領に就任する。初登庁の日、白人の職員が荷造りをしているのを見かける。どうやら解雇されるものと確信しているようだ。マンデラは職員を集めてこう訴える。「過去は忘れよう。この国の未来にはみなさんの力が必要だ」と。そして、かつて公安として黒人を取り締まっていた者をSPに起用し、危険を承知でラグビー場へと向かう。

 南アフリカには、スプリングボクスというナショナルチームがある。当時は世界レベルには遠く及ばず、しかもアパルトヘイトの象徴とされていた。政権交代を機にチーム名・エンブレム・ユニホームの色を変えようとする動きに、マンデラは「白人から大切な宝物を奪ってはいけない」と主張する。側近は支持層からの反発を懸念するが、「危険を恐れては指導者の資格はない」とはねつける。ラグビーワールドカップ(注1)の自国開催を翌年に控え、「一つのチーム、一つの祖国」のメッセージを掲げ、国を挙げて応援することで、国民に誇りを取り戻そうとしたのだ。 マンデラは主将のフランソワを官邸に招き、リーダーとしての哲学を問う。「自ら手本を見せることです」の答えるフランソワに「それも重要だが、仲間から限界以上の力を引き出すには『ひらめき』が必要だ」と語る。
 絶望的な状況でも希望を失わなかったのは何故なのか。その理由を知りたくてフランソワはチームメイトと共に、マンデラが収監されていたロベン島へ向かう。両手を伸ばせば届きそうな監獄に身を置き、マンデラが「立ち上がる力をくれた」と語る「インビスタス」(注2)を復唱する。
 マンデラは権力を手にしても尊大にならない。その姿は、自らのプロダクションを「茨の道」と名付けたクリント・イーストウッド監督の映画人生に通じるものがある。世の中の理不尽に対し、静かな怒りを湛える作品群とは異なり、今回は、直球ストレートの人間賛歌に仕上げている。 この一節を忘れずに生きていこう。「私は我が運命の支配者 我が魂の指揮官なのだ」(つ)

(注1)1987年以降、4年に1度開催されている。2019年の第9回大会は日本で開催される。
(注2)1875年にウィリアム・アーネスト・ヘンリーが記した一篇の詩。



ACT88    大草原の小さな家  1974〜1983年  米NBC作品
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混迷の時代いわれて久しい。政治・経済のみならず、人の心さえ混沌としてはいないか。何を基準に、何を信じて生きたらいいのか。そんな世の中に疲れたアナタに朗報です。ホームドラマの王道がDVDコレクション(注1)として帰ってきた。
 逞しくユーモア溢れる父・チャールズ。優しく気丈な母・キャロライン。賢く美人の長女・メアリー。快活で多感な次女・ローラ。まだ手のかかる三女・キャリー。そして番犬のジャック。5人と1匹の家族が織りなす物語は、人間として大切なことを思い出させてくれる。
 インガルス一家は新天地を求め、ウイシコンシン州から幌馬車に乗り、長い旅を経てミネソタ州のプラム・クリークにやって来た。途中、カンサス州で新生活を始めるものの、政府から立ち退き命令を受ける。この厳しい旅を描いたパイロット版が好評を得て、テレビシリーズ化が決まった。
 2005年にはABCがリメイクし、WOWOWで放映された。こちらも西部開拓時代の厳しい生活をよりリアルに描いた傑作だった。ローラ・インガルス・ワイルダーの原作は、アメリカ人にとって精神的バイブル(注2)のような存在なのだろう。

 第1話は「すばらしい収穫」。移住してきたばかりのインガルス一家は貧しい。チャールズは製材所で働き、家を造り、更に畑仕事も始める。しかし、桑や種を買う金がない。そこで農作業に必要な牛を担保に金を借りるのだが・・・。労働と契約。家族の絆。仲間の支援というテーマが明確だ。
 家族には様々な困難が降りかかる。オルソン婦人から嫌みを言われたり、収穫目前の作物が全滅したり・・・。しかし、決して卑屈にならず、いつも前向きに生きている。だからベイカー先生やビードル先生、ハンソン氏やエドワーズなど、この家族を愛してやまない仲間が集まってくる。
 最も印象的だったのが「町一番の金持ち」というエピソード。裕福だが家族に恵まれないオルソン氏は「あなたこそ町一番のお金持ちだ」とチャールズを讃える。明らかにフランク・キャプラの名作「素晴らしき哉、人生!」を踏襲したセリフなのだが、今から再見するのが楽しみな一篇である。
 シリーズを通じて、こんなエンディングがよく使われる。会話している家族を捉えたカメラがやがて窓を向け出し、小さな家をロングショットで捉える。一家の成長を見守る優しい視線が作品の持ち味なのだ。
 家族や仲間がいるから仕事も頑張れる。順番を間違ってはならない。(つ)

(注1)デイアゴスティーニ版は組合で購入できますが、NHKから謙価版も出ているので要チェック。
(注2)実際、ドラマにも教会のシーンはよく出てくる。オルデン牧師は主要キャストの一人でもある。



ACT89    がんばれ!ベアーズ      1971年  パラマウント作品
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昨年始まった「午前十時の映画祭」で幾つかの名画と出会った。「ウエストサイド物語」のダイナミックな群舞に酔いしれ、「フィールド・オブ・ドリームス」では亡き父を想い涙した。何より「フォロー・ミー」とスクリーンで出会えたことは、昨年で一番の映画体験だった。
 好評により「第2回 午前十時の映画祭」が2月5日からスタートした。このコラムで紹介した「アメリカン・グラフィティ」「ヤング・ゼネレーション」「ロンゲスト・ヤード」そして本作と、ファン好みの作品がエントリーされた。一方「サウンド・オブ・ミュージック」「風と共に去りぬ」といった劇場で堪能したい超大作も登場する。
 これまで87作品を紹介したが、15作品(注)が「午前十時の映画祭」のリスト入りを果たした。邦画やテレビ番組など42作品を除外すると1545。打率(?)にすると3割3分3厘だ。(ちょっと自慢です) 
 ロサンゼルス近郊で少年野球の新シーズンが始まろうとしている。急遽割り込んできたベアーズは、議員が監督を金で雇い、息子のために無理矢理作ったチームだ。原題はThe Bad News Bears」(悪い噂のべアーズ)はこの辺からきているのだろう。

監督のバターメーカーは元プロ野球選手との触れ込みだが、今はプール清掃で生計を立て、片時もビールを放せない飲んだくれ。子供たちもボールを捕れない、投げられない、ルールもあやふやな寄せ集め集団で、初戦は1回1アウトも取れずに26点を献上し、試合放棄で終了した。
 子供たちは学校で馬鹿にされ、議員も「これ以上傷つけたくない」とチームの解散を迫る。しかし逆にバターメーカーは燃える。ピッチングを教えたことのある元恋人の娘を勧誘し、バイクを乗り回す不良少年もスカウトしてチームの強化を図る。他の子も練習を積むことで上手くなっていく。負ける悔しさと勝利の喜び。口先だけだった子供たちに自主性が芽生える。
 しかし、大人は勝敗にこだわる。大敗したヤンキースとの決勝戦。バターメーカーは子供のためではなく、自分のために勝利に執着する。ヤンキースの監督も同様だ。ミスをした選手を怒鳴りつけ、指示通りに動くことを強要する。「勝ちたくないのか!」の罵声に子供はしらけ、やる気を失う。子供にだって自我はあるのだ。
その間違いに気づいたとき、映画は爽快な大団円を迎える。夕日に照らされた子供たちの表情がまぶしい。「来年は見てろよ!」弱虫のターナーが叫んだ。(つ) 

(注)このコラムでは太字6作品の他、「雨に唄えば」「ニューシネマ・パラダイス」「アメリカの夜」「スティング」「麗しのサブリナ」
  「卒業」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「すばらしき哉、人生!」「ストリート・オブ・ファイヤー」を紹介している。



ACT90     南極料理人      2009年  東京テアトル配給
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南極に「ドームふじ基地」なる施設があることを初めて知った。昭和基地から内陸に1000q、標高3810m、平均気温はマイナス54℃でペンギンはおろかウィルスさえ生息できない。そんな極寒の地で1年以上過ごした8人の物語である。
 猛吹雪の中、男が飛び出してくる。それを追う3人の男たち。「もうイヤです、勘弁して下さい!」と訴えるが、「お前が強くならなきゃダメなんだ!」と強く諭される。そして・・・、中国文化研究会の横断幕の下で麻雀をする4人・・・。タロもシロもいなければ、建さんのようなヒーローもいない。劇的なことなど何も起こらない。
 「大左遷もいいとこですワ」と車両担当が嘆く。料理担当の西村も内定者がバイク事故を起こしたため、代役として越冬隊に参加した。上司からの内示に「家族と相談させて下さい」と答えたものの、妻と娘には地球儀を指さして大笑いされる。(注1)まあ、泣かれても辛いだけなのだが、究極の単身赴任であることには違いない。
越冬隊の任務は気象観測と氷床の採取である。氷床には地球の成り立ちを解明する無数の情報が潜んでいる。この崇高な使命を果たすには生きなければならない。そのためにも食べなければならない。何もない世界で唯一の楽しみは食事である。ならば目一杯喜んでもらおうと西村は奮闘する。

 男は基本的に「おバカ」である。伊勢エビの存在を知ったドクターが「じゃあ今日はエビフライだな」と呟く。「伊勢エビでフライはないでしょう」と西村は反論するが、話は瞬く間に広まる。そして「エビフライ!エビフライ!」の大合唱。男子寮的おバカ・アンサンブルがこの作品の魅力だ。
 半年が経過すると南極は一日中闇に閉ざされる。そのせいか人間関係も歪んでくる。衛星電話で話す彼女の態度が冷たくなる。ラーメンが底を付いたと知らされ、タイチョー(注2)は気絶しそうになる。厨房に忍び込んでバターを舐める者がいれば、仮病を使って作業をサボる者まで現れる。
 かん水作りのヒントを得た西村はラーメン作りに挑む。そして完成。スープから湯気が立ち上り、弾力感のある縮れ麺が食欲をそそる。目の前に出されたラーメンに「もう待てない」とタイチョーが口にしたとき、「凄いオーロラが出ています!」と報告が入る。「観測しなくていいンですか!」の声を無視して、ひたすら麺をすするタイチョー。その至福の表情に迷いはない。
 西村はさしずめ大家族のお母さん。彼らの胃袋を日々満たすのは大変だ。そう思ったとき、一緒に大笑いして観ていた妻がポツリと言った。「毎日みんなの食事を作るのって、イヤだろうなぁ・・・」 
 「美味しい」と言って食べよう。(つ)

(注1)妻役に西田尚美がピッタリなのは当然として、それ以上に娘役の小野花梨ちゃんが絶品です。
(注2)きたろうが演じている。主演は堺雅人。他に生瀬勝久、豊原功補とクセ者揃いのキャスト陣。