拉致は国家主権の侵害である
家族だけの問題ではないという認識が必要  


北朝鮮に拉致された被害者の

一刻も早い帰還を実現させよう

UIゼンセン同盟 第4回定期大会(2005.9.14)

              横田早紀江さん講演

 新潟で開催されたUIゼンセン同盟第4回定期大会において、拉致被害者家族会代表の横田滋さん、早紀江さん夫妻の講演が行われた。
 まず滋さんからは、拉致事件の経緯と現在までの活動および現状についての報告がされた。それを受けた早紀江さんからは、拉致問題の本質についてのお話と、支援のお願いがされた。


 煙のように消えた娘  

UIゼンセン同盟の皆さんこんにちは。今日はこんなにも多くの方が集まる大会にお招きいただきありがとうございます。今、主人が事件の経緯について話しをしましたが、拉致というのは、誘拐、人さらいです。日本のいろいろな場所から、何の罪もない者が、一生懸命に育て上げた子供達が、あっという間に袋に入れられたり、グルグル巻きにされたりして、不審船の船底に放り込まれて連れ去られたのです。こうした出来事が起きて28年という長い年月が経ちました。本当にめぐみ(注1)の場合も煙のように、下校時に家の直ぐ近くで突然消えてしまいました。どんなに探しても、泣きわめいても苦しんでも、めぐみの情報は米粒ほどもありませんでした。警察が今までにない程の大捜索をして下さり、海から山から、神社の畳を上げたり、天井裏まで、あらゆる所を探して下さいましたが、何の手がかりも見つけることは出来ませんでした。娘が消えてしまったこの28年間という年月は、本当に皆様、どんなことかお解りでしょうか。これは私だけの事ではなく、日本中に同じ思いをしながら、お歳を召されていく方がたくさんおられるのです。


 拉致は『国家犯罪』 

このような平和な日本の国土の中で、こんなにも残酷で恐ろしい『国家犯罪』が行われていたなんて、誰も考えていませんでしたし、信じることも出来ませんでした。ですから活動を始めた頃は『拉致疑惑』ということで、『疑惑』の文字は消えませんでした。私たちが「これは『疑惑』ではない」と主張しても、マスコミを含めこの文字が消えることは、長らくありませんでした。私たちは家族会を結成し、政府や外務省や官邸にも、何度も何度もお願いにまいりました。蓮池薫さんのお父さんはよくおっしゃっていました。「あなた方は、私たちの子供をまるで虫けら同然に思っているのではないですか!」と。また、「ねばり強く、忍耐強く交渉しなければならない」という回答に対して、お兄さんの蓮池透さんは、「ねばり強く、忍耐強くという言葉は、家族がだんだん歳をとって、身体を壊して倒れてしまうまで・・・、という言葉に聞こえますよ!」と厳しい言葉でおっしゃっていました。 


 「俺は日本を信じる」という遺言 

家族会の活動を始めてもう10年目に入っております。アメリカ・ワシントンに2回も行き、ジュネーブの国連にも申し立てに行き、皆さんのおかげで5百万名もの署名を官邸に納め、こんなに大きな関心を集めるようになってもなかなか進展しない。この頃は「蓮池さんの言葉のとおりだな」という思いに駆られるのです。始めの頃は、増元るみ子さん(注2)のお父さんもとってもお元気でした。大きな声で笑う、九州のとっても明るい方でした。るみ子さんを待って待っておりました。るみ子さんの写真を大きく引き伸ばし、鹿児島の街角で私たちは一緒に「署名活動お願いします!お願いします!助けて下さい!」と叫んでいました。その当時はまだ『疑惑』の文字が付いていた頃ですから、「そのような事には関わりたくない」とか「本当にそんなことがあるのか」と、チラシも受け取って下さらない方がほとんどでした。増本さんのお父さんは「これは大変なことなんですよ!こんな大事件が日本中で起きていたのに、政府はこの24年間、何をしてきたんだ!」涙を流しながら大きな声で叫んでいました。るみ子さんを待って、本当に一生懸命活動をしておられました。3組の方が帰ってこられましたが、(お父さんは)その時には重病になられていたので、増元照明さん(注3)は、5人の方に「ちょっとでも、るみ子を見たことがないか?」とお部屋を訊いて回っていました。けれどもあの当時は、帰られた方も緊張感もあったのでしょう、圧力もあったのかもしれませんが、「会ったことはありません。知りません」とおっしゃっていました。照明さんはがっかりして、鹿児島に飛んで帰られて、病床のお父さんの所に行かれ、「圧力をかけられて、誰も知らないと言っているけど、るみ子はきっと生きているから、頑張るからお父さんも頑張れ!」と酸素マスクを掛けられていたお父さんを励ましました。その時、お父さんは「俺は日本を信じる。だからお前も日本を信じろ!」という言葉を残して天に召されたのです。この言葉は、私たち国民に託された言葉だと思っています。


 日本人の『正義』は何処にいったのか 

私たちは外務省を信じ、政府を信じ、信じて信じてお願いをし続けてきました。「お願いします。助けて下さい」と言い続けても、この問題はなんとなく訳の分からないままに脇に追いやられてしまうということがずっと続いおります。外国の皆様方は『正義』ということに対してしっかりとした認識を持っておられます。国連の高等弁務官は本当に涙を流して「これが私の子供だったら・・・、あなた方はこんなに遠くまで来てくれた。拉致はテロなんです。だから頑張って下さい。私も頑張るから」とおっしゃって下さいました。しかし、その方もテロで命を落とすという事態に見舞われてしまいました。けれども、私たちはあの時の『悪』に対する怒り、私達への『慈愛』に満ちた、深い涙の目を忘れることは出来ないのです。残念ながら日本の政治家の方々に、そのような想いを持ったことがありません。それが不思議でならないのです。どうしてこんなに日本の国は、大事な温かいモノが無くなってしまったのでしょうか。


 曽我ひとみさんが語った拉致の状況 

めぐみは「死亡した」と言われ、偽の骨が渡されました。北朝鮮の何処の誰だか判らない方の骨です。その方はもっと可愛そうです。何のために遠い国に運ばれてこなければならないのか。どんなに酷い事が行われているのかという事を、私たちは考えなければならないのです。多くの被害者は今も北朝鮮で助けを求めているのです。曽我ひとみさんがおっしゃっていました。家族が必ず助けてくれると信じていたと。待って、待って、待って、それを信じ続けていたと。曽我さんはめぐみと励まし合って、一緒に暮らしたことがあります。めぐみは何人かの人に囲まれ、ぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわをはめられ、あっという間に袋を被せられ、船に乗せられ船底に放り込まれ、泣きわめいていたと聞きました。「お母さん助けて!」と船底の壁やドアを掻きむしったそうです。その爪ははがれていたそうです。こんなに恐ろしいことが、日本のあちこちで行われていたのです。これが現実だったのです。


 日本を愚弄する行為 
 

北朝鮮は拉致の事実を認めました。そして、5人の方と家族が帰ってきました。しかし、めぐみを含め、11人は「死亡」「未確認」などの説明を受け、これで拉致問題は終わった主張しています。あげくの果てにめぐみは嘘の骨にされて渡されました。その時、私には「この骨は私のモノじゃないのよ。私はここに居るのよ」とめぐみの声が聞こえるようでした。「拉致の事実はない」と言い続けてきた国が、その後、めぐみの写真を出してきました。あの悲しそうな目を見たとき、滅多に泣かない双子の二人の弟が、男泣きに泣きました。私はあの写真を撫でて「ああ、めぐみちゃん、こんな所に居たのね」と言いました。写真は「早く助けて、早く助けて!」と訴えていました。安倍幹事長代理は、「めぐみちゃんのあの悲しい目に対して、日本政府は責任がある」とおっしゃいました。(政府に拉致被害者と認定されないまま)もっともっと辛い思いをしている方もたくさんおられます。全く見えない、何にも判らない。北朝鮮のその内部の施設の中で、どのように暮らしているのか。めぐみ達は今も呼びかけているのです。
 偽の骨が差し出されたとき、もっと日本人は怒るべきでした。家族だけの問題ではありません。これは日本が本当に愚弄されているのです。屈辱的な事をこんなに長い間受け続け、これだけたくさんの人が苦しめられているのに、何にも出来ない、いつになったら解決するのか。いつになったら帰してもらえるのか分からない。いつまでも待ち続けなければならない国家とはいったい何なのでしょうか。


 親として、日本国民として成すべき事
 

本気でこの問題を私たちの世代で解決しないと、日本は世界で馬鹿にされる国になってしまうと私は思います。偽の骨であると判ったときに怒るべきでした。「こんなことをするならば経済制裁する」と言うべきでした。拉致議連(注4)の方達だけがこの問題に取り組んでいたのではダメなのです。人の親なら、全ての国会議員が拉致議連でなければならないのです。そのような国でなければならないのです。私たちはそのことを訴えたくて、今日もこうして参りました。手を差し伸べて、どうか本年中に待っている子供達を助けて欲しいのです。どんなことがあっても自分の子供なら、親は助けに行くじゃないですか。まだ状況がよく判らない特定失踪者(注5)のご両親にもなり代わりまして、本当に皆さんのご支援が必要です。どうか応援をいただきたいと思います。本日はありがとうございました。 (要旨抜粋)

<注釈>
(注1)横田めぐみさん。1977年1115日、
新潟市内の中学校からの帰宅途中自宅近くで消息を絶つ。当時13歳。
(注2)1978年に鹿児島県で失踪。当時24才。北朝鮮の説明では死亡と報告された。
(注3)増元るみ子さんの弟。本年4月、家族会事務局長を蓮池透さんから引き継いだ。
(注4)北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟。超党派で構成されている。
(注5)特定失踪者問題調査会の報告によると、現時点での特定失踪者数は約450名。
    調査会は、北朝鮮による拉致の疑いのある失踪事件について調査を行い、もって拉致事件の解決を目指す組織。
    代表は荒木和博氏。